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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1030号 判決 1960年1月29日

控訴人 東洋電機産業株式会社

右代表者 安満アキヱ

右訴訟代理人弁護士 岡本一太郎

被控訴人 神野農業協同組合

右代表者 春名直治

右訴訟代理人弁護士 池内善雄

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し六七万五三〇〇円及び内金三〇万円に対する昭和三四年二月二六日から支払ずみまで、三七万五三〇〇円に対する同年三月一〇日から支払ずみまでそれぞれ年六分の割合による金額を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決主文第二項は、控訴人が二二万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

志水浜男が被控訴人参事在職中当時の被控訴人理事志水隆雄の名義を使用して本件約束手形三通を振り出したことは当事者間に争がない。甲第一号証から第三号証までの約束手形三通の表面の記載自体、原審証人二階堂薫園、志水隆雄(後記信用しない部分を除く。)、大井礼三、福田勉の証言によると、志水浜男は被控訴人参事に就任し昭和三三年二月頃その旨の登記がされたところ被控訴人参事としてかつて特定の取引先に対する小額の買入代金支払のため直接被控訴人理事の名義を使用して手形を振り出したことがあるものであるが、同年一一月一八日被控訴人の印章、被控訴人組合長名義の被控訴人理事の印章、ゴム印を使用し、直接被控訴人理事志水隆雄の記名をし、その名下に被控訴人理事の印章を押し、その記名の左横に自己の「志水」名義の認印を押し、金額三〇万円満期昭和三四年二月二六日支払地山崎町支払場所兵庫県信用農業協同組合連合会山崎支所振出地兵庫県宍粟郡山崎町田井五九二番地の一と記載した約束手形一通(甲第一号証)を石原武男あてに振り出し、昭和三三年一二月一八日前同様の方法で直接被控訴人理事志水隆雄の記名をし、その名下に被控訴人理事の印章を押し、その記名の左横に自己の「志水」名義の認印を押し、金額二七万八七〇〇円満期昭和三四年三月一〇日振出地山崎町その他の記載右と同一の約束手形一通(甲第二号証)、金額九万六六〇〇円その他の記載右と同一の約束手形一通(甲第三号証)をいずれも石原武男あてに振り出し、志水浜男個人の電機製品買受代金の支払にあてたことが認められる。前示志水隆雄の証言中右認定に反する部分は信用しない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

被控訴人は、本件約束手形三通は志水浜男が、被控訴人参事であることを表示しないで、勝手に理事志水隆雄の署名を代理して偽造した無効のものであると主張するので考えてみるに、およそ手形行為の代理の方式として代理人による本人の署名または記名押印の代理は有効であるばかりでなく、農業協同組合参事は、その主たる事務所または従たる事務所において、その業務を行うことができるものであつて、参事には商法三八条一項等の規定が準用されるのである(農業協同組合法四二条)から、支配人と同様、本人、つまり農業協同組合の業務に関する一切の行為をする権限を有するものであり、したがつて農業協同組合のために手形行為をする場合、とくにその理事より署名または記名押印を代理する権限を授与されていなくても、直接理事名義の署名または記名押印をし得る権限を当然有するものと解するのが相当である(大審院昭和七年(オ)第三一五三号事件昭和八年五月一六日言渡判決・民集一二巻一二号一一六四ページ参照)。すると前示認定のように志水浜男は当時被控訴人参事であつたから、当然当時の被控訴人理事志水隆雄の記名押印を代理し得る権限を有するものというべく、前示認定のように被控訴人参事志水浜男が被控訴人理事の記名押印(押印は前示認定のように被控訴人組合長名義の被控訴人理事の印章をもつてされている。)を代理して振り出した本件約束手形三通は偽造のものということはできない。被控訴人の右主張は採用することができない。

第三者が作成したものであつて弁論の全趣旨によつてその成立の認められる甲第一号証から第三号証までのうちの各附箋(被控訴人作成のものを除く。)、甲第一号証から第三号証までの各裏面の記載自体、原審証人二階堂薫園の証言、弁論の全趣旨によると、本件約束手形三通の受取人石原武男は根来商会こと高島豊にその白地裏書をし、高島豊は昭和三三年一一月二五日頃甲第一号証の約束手形を控訴人に白地裏書によつて譲渡し、控訴人はその所持人となり昭和三四年二月二四日株式会社第一銀行に、同銀行梅田支店は同日株式会社神戸銀行に順次その取立委任裏書をし、その満期日の同月二六日支払場所でその支払呈示をしたが拒絶されたので控訴人は甲第一号証の約束手形の返還を受けた。高島豊は昭和三三年一二月二九日甲第二、第三号証の約束手形二通を控訴人に白地裏書によつて譲渡し、控訴人はその所持人となり昭和三四年三月九日株式会社第一銀行に、同銀行梅田支店は同日株式会社神戸銀行に順次その取立委任裏書をし、その満期日の同月一〇日それぞれ支払場所でその支払呈示をしたが拒絶されたので控訴人は甲第二、第三号証の約束手形二通の返還を受けた(本件約束手形三通の各呈示のあつたことは当事者間に争がない。)ことが認められる。

すると、被控訴人は控訴人に対し本件約束手形三通の手形金合計六七万五三〇〇円及び内金三〇万円に対する甲第一号証の約束手形の満期日昭和三四年二月二六日から支払ずみまで、三七万五三〇〇円に対する甲第二、第三号証の約束手形二通の満期日同年三月一〇日から支払ずみまでそれぞれ手形法に定める年六分の割合による利息を支払うべき義務があるものといわなければならない。

そうすると、右と同趣旨でない原判決は失当であつて本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条九六条八九条一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 山内敏彦)

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